Minami Produce verse.06『失われつつある物語』

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あるささいな出来事から「大きな物語」を書けなくなってしまった作家、朔本ひかるは友人のミステリー作家、早川吾妻の前に現れた。才能に恵まれながら偏屈で人嫌いな友人が自分の書斎を訪ねるのは初めてのことだったから、早川はいささか動揺したが、年代物のカリモクに座りコーヒーをまずそうに一口すすった朔本の「世界を、創造しないか？」という言葉にはアーロンチェアから滑り落ちそうになった。

「今から俺とあんたと何人かの作家である世界を設定する。そこは完全に閉ざされた一個の共同体が存在している。そして同時に、世界を舞台に小説を書き、発表する。そして、全ての著作権を放棄する・・するとどうなる？無数のコピーが生まれ、俺たちの手を離れてその世界は動き出す。新しい人間が生まれ、無数の小さな物語が乱立する。そこはもう、完全な世界だ」

世界の模倣が、朔本と早川の頭の中から、静かに始まった。